人間は時間がたつとなんにでも慣れてしまう。いいことにも悪いことにも。だから持続的な幸福状態はありえない。さりとて悪い境遇にも慣れてしまうから多少つらいことがあってもなんとかやり過ごすことができる。恒常性が働くのか、だいたい普通の状態でいられる。
病気したときに、あとは時間薬、などということがあるが、時間経過で自然治癒することとともに、治らなかったとしても、時間が経つとその状態に慣れていき、苦痛は軽減されていくということも含まれていると思う。
テニスのアンドレ・アガシがウィンブルドンで優勝したときに、その晩はうれしかったが、翌日にはもうそんなにうれしくなかった、という話を読んだことがある。まあ、そんなもんだと思う。
書店にいくと自己啓発っていうのか、幸せになりたい人向けの本がワンサカ積んであるわけだが、幸せを追い求めるのは、恒常性から考えて無理なんじゃないかと思う。追い求めないほうが、まだ心を平穏に保てると思ってしまう。足るを知る、みたいな仏教的なところにいってしまうが。
ナニワ金融道に、借金のカタにソープに沈められる女性の話があるが、そこで最後のシーンで桑田はんが灰原に「人間どんなことにも慣れられるもんやで」という。なぜか、ぼくはここで感動して、気持ちが楽になる。救いのない状況なのに、一筋の光明が見える。
(2019/12/04記)